
自律神経分析報告書(AAR)
Institute of HeartMath(IHM)におけるHeartMath Research Center(非利益団体)が開発した自律神経分析報告書(AAR)は、自律神経機能を量的に測定する為の高度に洗練された内容を持つものである。
AAR の目的は:
1)医師にとって、自律神経機能の量的測定と患者の抱える病気のリスクをレベル的に分析す
ることを非観血テストで可能にすること。
2)研究者にとって、治療や薬物が患者に与える自律神経への影響を確認する。
3)病理学的状態における自律神経の状態を明らかにする。
AAR は自律神経系の総合的分析報告書である。
24時間ECG(ホルター)記録を採用
報告書は、患者の自律神経の機能と働きを時間領域、周波数領域および24 時間周期リズムの分野で量的に分析し、医師にとって有用な情報をグラフで表示している。
HRV(心拍間隔変動)分析は、正常心拍を基本にしており異常心拍は除去されている。
歴史的背景
Walter B. Cannon がホメオスタシス(恒常性)の概念を紹介した1929 年以降、生理学の研究は、体内において全ての細胞器官は安定状態を保っているという原理に基礎をおいていた。
しかしながら近年において、心拍数や血圧や神経活動からの信号を分析する技術が進む中で、安定した体の状態のときでも体内の生物学的プロセスは多様かつ複雑で直線的でないことが判ってきた。
これらの観察の結果、健康な生理的機能は複数の神経的,ホルモン的、機械的、かつ局部の細胞レベル下のコントロールシステムの相互作用が、継続的かつダイナミックに作用している結果であることがわかった。 例えば、通常の安静した状態での心臓のリズムは大変に不規則である。この不規則性は一定時間内の心拍数の平均からは判らないが、拍動間隔を基礎にした観察からは非常に明らかである。
短期的心拍数の変動は、呼吸、代謝、キモレセプターや自律神経活動によって影響され、長期的変動は更に体温、代謝の度合い、ホルモンや睡眠のサイクルによっても影響される。 これら多くの要素が、ダイナミックな生理的コントロールシステムを作り出す。 健康体はこのように必要なときに反応し回復するよう機能する。HRV 分析は、心臓血管リサーチやや薬物、その他臨床の専門分野で広く使われるようになってきた。 これらのリサーチの結果、HRV 分析が自律神経の活動とバランスとリズムを高い精度簡単に、非観血テストで測定出来る手段である事が立証された。
自律神経律動異常は、いくつもの臨床的障害に関連している。 HRV 分析の臨床的妥当性が最初に注目されたのは、死にいたる障害が心拍の観察において拍動間隔の変化に最初に現われるとの発見が行われた1965 年である。 1990 年代の初期、HRV 分析は糖尿病患者の自律神経障害を予見するのに役立つことが発表された。 1977 年には、心拍間隔変動の減少は心筋梗塞後の高い死亡リスクに関連しているとの発表がされた。 このことは1980 年代の後半、心拍間隔変動の減少が急性心筋梗塞後の死を予見する非常に強力な指標であるとの発表により再確認された。 1981 年、パワー・スペクトル密度分析が心臓の交感神経および副交感神経のコントロール、つまり自律神経のバランスを量的に分析する手段として導入された。 さらにコンピューター技術の発達により、臨床分野でのHRV 分析が実際的かつ経済的になった。 今日、自律神経に関連する病理学の分野で、HRV 分析が新しい強力な武器であるとの認識が医師の間で出来てきた。
測定基準
1979 年、HRV 測定に関連した生理学的および病理学的疾病や学術用語、分析方法や定義についての標準化の必要が出てきた。 そのためヨーロッパ心臓学会と北アメリカペーシング電気生理学会のメンバーによって構成される国際特別任務班が設置された。
分析方法
HRV は、パワー・スペクトル密度分析における時間領域分析と周波数領域分析の2つの方法によって分析される。 いずれの方法においても、先ず連続した正常QRS 群の時間間隔が決められる。 時間領域測定は、24 時間にわたる正常波の間隔(NN 間隔)の平均値と分散の統計的測定を含むみ、計算が非常に簡単である。 時間領域測定のうち最も重要な値はSDNN とSDNN インデックスとRMS-SD である。
SDNN はNN 間隔の標準偏差値であり、NN 間隔の分散の平方根である。 分散は、スペクトル分析のトータルパワーに数学的には等しく、分散の原因となる全ての周期的要素を反映している。 SDNN 値は記録の長さに関係しており、記録時間が長ければ値は高くなる。
RMS-SD は隣り合うNN 間隔の分散の平均値の平方根である。 これはNN 間隔の高周波域、つまり心臓の副交感神経作用の度合いを測定する。
パワースペクトル密度分析からは、周波数としてパワーがどのように分散しているかの情報が得られる。 パワー・スペクトル分析において、心臓の交感神経および副交感神経のコントロールをどのように見分けるかを理解するには、自律神経の2つの神経系の作用に心臓がどのように反応するかを理解すると判りやすい。
心臓の自律神経コントロール
神経やホルモンの影響を受けない固有心拍数は、大体1分間に100~120 である。 健康体においては、副交感神経(迷走神経)の働きによって心拍はゆっくりとなり、交感神経の働きによって促進される。 迷走神経の働きによっては、心拍がゆっくりとなるだけでなく止まる事さえある。 迷走神経の作用は心拍数」に即座に反応し(1~2ビート)、無くなると心拍数はすぐに元に戻る。 洞房結節による心臓の固有心拍数を超える心拍の増加は、基本的に交感神経の働きの増加による。 交感神経の作用の変化が心拍数の変化に現われるのに5秒近くかかる。しかも、それが安定したレベルに到達するのに20 秒~30 秒かかる。
このように、交感神経の働きが心拍に影響を与えるのに非常に時間がかかるのに対し、迷走神経のそれは殆ど瞬時で非常に対照的である。 血圧の短期的調節は、心臓全体に張り巡らされた大動脈弓の中の、圧力の変化に敏感な圧受容器の複雑なネットワークによって行われている。血圧の調節は心臓血管システムの役割の中心であり、血圧の変化を促す要素は心拍の変化もコントロールしている。 求心性インパルス(脳へ行く信号)は、圧受容器から下咽筋、迷走神経を通って延髄の中の血管運動中枢へ伝達され、そこで主として心臓や血管への交感神経系統の働きの度合いを調節する。 ここでは、副交感神経の心臓への働きの度合いもある程度調整する。 このように、圧受容器は心拍、動脈血管収縮、静脈血管収縮、そして血圧調節の為の心臓収縮を調節する。 圧受容器からの求心性インパルスに伴う交感神経と副交感神経の活動は、心拍における心拍間隔を生み出す。 この心拍間隔の変化を観察するには、R 波(心電図
上で心室の電気的興奮に対応する棘波のうち、上向きの振れを示す最初のもの)の間隔をプロットしたタコグラムが最も一般的である。
図1 は、ブロックダイアグラムでこれらの関係を示している。 心拍間隔の変動は、自律神経の二つの部門である交感神経と副交感神経が、外的もしくは内的状態の変化に対応して神経的、無意識的、またはホルモンや他の生理学的仕組みを通じて心臓血管システムを最善の状態で維持しながらバランスをとろうとする相互作用の結果である。
図2 は、5 分間のデータをプロットした心拍タコグラムの例である。 タコグラムは、自律神経がシステムを調整する時の早さと形の増幅、もしくは変化をみる事が出来るHRV 信号もしくは波形と考えることが出来る。 この波に、分光分析もしくはろ過技術を使って、異なる周波数を識別し分析することが出来る。
HF 帯は、副交感神経もしくは迷走神経の働きに関連しており心拍間隔の早い変化を示す。 他方、VLF 帯は殆ど交感神経の働きを示す。 LF 帯は、心臓の交感神経と副交感神経の両方の働きを示す。
スペクトル分析は、5 分間分析に加えて1 回の記録が24 時間の分析にも使える。 24 時間分析の場合にはULF(超低周波:0.0033 Hz 以下)帯が加わることになる。
異なる周波数帯の、より以上の説明と論議は以下の項で行うことにする。4 図は、心拍タコグラムがどのように構成され、交感神経と副交感神経が心拍に対し、夫々異なった周波数帯においてどのように影響しているかを示している。 4A 図において点線で結ばれた点は、夫々の心拍間隔に基づく心拍数である。 心拍タコグラムは点と点を線で結んで作ったものである。 4B 図は、4A 図を取り出したより長い(3 分間)の記録である。 時間軸は心拍における拍動間隔の変化がわかりやすいように横に広げている。 4C 図と4D 図は、心拍における交感神経と副交感神経の影響を見れるようフィルターで分けている。 4C 図では、副交感神経の影響を表す高周波帯域(0.15~0.4 Hz)がフィルタープロセスで除去されており、その結果交感神経の影響を表す低周波が残っている。 4D 図では、低周波(0.04~0.15Hz)が除去され、副交感神経の影響だけが残っている。 60 秒から120 秒の間で心拍数は増加しており、交感神経機能が増加していることを示している。 4D 図ではこの部分が除去されている。 この例では、心拍数の増加は交感神経の働きの増加で副交感神経の抑制ではない。
交感神経の働きの増加は、多くの場合副交感神経の働きの抑制を伴い、逆に副交感神経の働きの増加は、多くの場合交感神経の働きの抑制を伴う。 交感神経性脈拍に先立つS 波((心電図のQRS 群(心電図上で心室筋興奮に対応する棘波)におけるR 波の陰性波))は、呼吸と心拍変動の間の“同調”の例であり、安らかな眠りかゆったりとリラックスをしているときに見られる。
まとめ
神経やホルモンの影響を受けない心拍数は、本来1 分間に100 から120 である。
洞結節の副交感神経の刺激に対する反応時間は非常に短く即座である。 心拍数の突然の変化は、副交感神経で調整される。
心臓は、交感神経の刺激にはゆっくりと反応する。 心拍数に影響するのに5 秒近くかかる。このように交感神経の刺激に対する反応の遅さは、迷走神経の刺激に対し殆ど同時に反応するのとは極端に対象的である。
出典資料:IHMのAAA報告書から抜粋


